社会福祉士(エンディングソーシャルワーカー)
終活カウンセラー 上級
川上 恵美子
「自分の葬儀を考えたい」。40代の男性から電話があったのは、私が葬儀の仕事をはじめたばかりの2年目の夏。余命宣告を受けていつどうなるか分からないという。葬儀の話ではなく、先ずは、彼の歩んだ人生、思いなどたくさんの話を聞かせてもらいました。
「なぜ葬儀の準備をしたいのか」と問うと、「家族にきちんとお別れできなかったと後悔してほしくない」そして「最期に大切なみんなにも会いたい」との答えだった。彼には、妻と中学生の子供、そしてたくさんの友人がいました。私は、家族で話す場をつくるよう依頼し、後日、夫妻からお互いの気持ちや考えを聞きました。
「これからを大切にしたいからこそ亡くなったときのことを考えたい」という彼に対し、「亡くなることを考えると怖くてたまらないので何も考えたくない」と妻。お互いが、今まで話し合うことを避けていた思いや考えを言葉にすることができました。その後は、家族ぐるみで彼の友人に会い、今後について話す時間も自然と増えたということでした。
葬儀は、彼と出会った半年後、執り行われました。参列した皆さんは彼から余命のことなども知らされていて、家族と友人たちとの話は夜通し続きました。彼の思いを受け止め共有する場があること、お葬式の場で新しいつながりが生まれていました。
後日、彼が残したエンディングノートと家族宛ての手紙を拝見しました。そこには素敵な思いがつづられていました。書かれた日付ことに字体が違います。日々体調も気持ちも変化していたようでした。「主人がこんなことを言ってくれるのは初めてです」と、妻は少し照れながら嬉しそうでした。
最期に家族や友人とともに「死」に向き合った彼。その生き方は、周りの人にさまざまなことを教えてくれました。彼のお陰で、遺された家族には沢山のサポートができました。自分ができないことを友人や仲間にきっと託したのだと思います。
「周りの人への感謝の気持ちを忘れず生きてほしい」
息子さんに何度も何度も語り遺した言葉。
エンディングノートへ書かれた言葉。
「葬儀は全て川上さんに任せています」
この言葉に責任をもって、私はこれからも葬送の仕事(志事)と向き合いたい。